山中コンサルティングオフィス

Author Archives: ishibashi

About the author...

通信社勤務を経て、2004年にマレーシアでビューティー事業会社設立。アジア各国メディアとの人脈と起業経験を生かし、商業施設リサーチ、ビジネスマッチング、販促マーケティングでコンサルティングを行う。美容室 76 STYLE を経営するほか、美眉 & 美まつ毛専門サロン3店舗、飲食業4店舗のアジア出店を支援、実現した。また、日本企業のフランチャイズ展開を香港、マカオ、東南アジアで現地企業との間でまとめた。

ASEAN の人材 4

マレーシアの華人系は、一般的にマイルドだといわれます。マイルドではピンときませんね。あまりガツガツ一辺倒ではないというか、これでもかというほどに意見や考えを押し付けてくる場面は少ないという意味です。一般的にですよ。

複合民族国家にあって、融和と協調という精神が浸透しているのでしょうか。比較的やさしいですし、人なつっこいと思います。これはマレー系の人々も同じで、とてもやさしいです。

この国民性が、組織に対する忠誠度が低い部分とあいまって、「いいよ、いいよ。特別にね。今回だけだよ」と特例扱いをしてくれることが良くあります。商品を値引きしてくれたり、お役所で必要な書類が不足しているのに受理してくれたり、おまわりさんが寛容だったり・・。

いい加減と言う人もありますが、そう簡単に片付けず、少し掘り下げてみます。

まず、組織に対する忠誠度が低いと書いたのは、組織全体に「私は知りません」を許してしまう土壌があるからだと思います。

お役所のケースとは言いませんが、例えば、書類が足りない場合。

何となく2段階くらいは、不備に気付かないうちに通ってしまう。ある程度まで通過したところで、「おやっ、足りないぞ」となるが、「どこからないんだ?」と探すうちに、『私は知りません』『私も知りません』と皆が口々に言い出し、「しょうがない。今回だけ、通すか」となる。

だから、一度断られたことについてでも、「ダメもとで言ってみるもんだね」ということが度々あります。

これ、自分の組織内でスタッフがこうだったら困りますよね。

なぜ、こういう構造になるのかというと、そこにはマレー系マレーシア人やインドネシア人に共通する人柄が関係してくるのだと思います。次回は、そのことについて・・。

文 石橋正樹

ASEAN の人材 3

前回、バンコクとホーチミンに関して、集団をまとめるのは大変だと書きましたが、これに関する要点はASEAN 中どこにいても同じで、いかにローカルのリーダーと志を共有するかによると思います。

僕らがどれほど、その国の人たちの考え方や性質を把握したつもりになったところで、本質を理解することはかないませんからね。だから、自分の下にリーダーをたてる。そして、明確なヒエラルキーを作る。権威をもたせる。

ただ、なかなかこのあたりは日本人には難題なのかもしれません。

典型的な2つのパターン。

1.ヒエラルキーを嫌う

現場もマネジメントも関係ない。同じ社員なんだから、一緒に作業して、一緒に会社の現状について意見をかわし、たまにはご飯を食べにいこう、と。

仮にデスよ。今の会社に入る前までの10何年とか20何年とか、ヒエラルキーのある社会が当たり前だったのにそれを急に外されたら、どうなるでしょう?

社会構造としてのヒエラルキーを肯定している訳ではありませんが、新しい秩序を作るには相当の時間とエネルギーが必要です。このパターンでよくあるのが、はしごを外した結果、しばらく経った後に秩序がなくなって混乱するということ。

2.信用したがらないパターン

あいつは分かっていない。だから、・・・人は。というのが口癖で、現地のヒエラルキーの上に立つリーダーを作りたがらない。

どこの世界に行っても、最初から分かってくれる人材など存在しないと思います。

時間はかかりますが、自分の言葉を、いないところでも現地の言葉で話してくれるリーダーがいれば、きっと組織力は変わると思います。

 

今日は、マレーシアの人材について書こうと思っていたのですが・・・。次回につなげます。

文 石橋正樹

ASEAN の人材 2

前回の続きです。

 

ファッションイベントを運営する際に手伝ってくれる Usher の動きから、働き方に関する各国の特徴が見えることがあります。独断と偏見で、思うところを書きます。

タイとベトナムは比較的似ている気がします。毎回、人の多さに驚かされます。よくもこんなに集めたなと主催者の力量に感心します。ところが、これがあだになることが後に起こります。基本的に皆、責任ある立場が好きなようです。互いに小さな領域を「ここは私の担当です」と主張しあいます。何かを頼んだときには、心強い返事が返ってきます。ところが、それを誰かに指示することでその人は役目を終えてしまいます。

例えば、映像の編集を頼むとします。「データはどうなった?」と聞くと、「作業中」と返ってきます。「あと、どれくらいで仕上がる?」と続けると、「15分くらい」。15分後に聞いても、「あと15分くらい」と延々繰り返します。おかしいから、問いただしてみると「映像スタッフに編集を依頼してデータを渡した」。「私は、きちんと指示をした」と胸を張る。そこから、データを渡された人が、また次の人に指示を出す。編集スタッフに行き渡るまでに、何人か人が介在する。とにかく人が多いですから。指示を出される側ではなく、出す側の立場が好きですから。

結果的に、こちらが最初にデータを渡した Usher は、実際に作業を行っている編集者が誰か知らない。だから、進捗を聞かれても確認ができない。だけど、何も答えない訳にはいかない。30分では長過ぎるから、15分くらいと返答する。その間に作業は完了してデータは届くだろうという期待を込めて。

こうした事態に気付き、データの行方を探り当てるのも一苦労。最初の Usher をつかまえ、一緒に次の人を探す。数が多いから、その次の人を探すのが難しい。だからといって、行方探しを任せるのも危うい。
ようやく編集者までたどり着くと、データは作業ファイルの下の方に埋もれている。「急いでいるから先にやってほしい」と伝える。必ず作業を終えるまで、隣りにいる。これで、なんとか映像がショーのリハーサルに間に合う。こんな具合。

前回のコラムで書いたベトナム系アメリカ人はさすがだった。動きの良い Usher 1人を捕まえ、目を見て鋭く言い放つ。

Bring this data straight to the editor. Don’t pass or ask others. Make sure who is the editor. And get to know his name, mobile, how long does it take. Go, get it by yourself.

なるほど。ホーチミン、バンコクでの任務遂行までの流れ。勉強になりました。

文 石橋正樹

ASEAN の人材 1

ファッションイベントのプロデュースに携わっています。関わったイベントの数はこれまでシンガポール、ジャカルタ、バンコク、ホーチミンで約10回ほど。

 

それぞれ現地入りし、その国のスタッフの方と共に運営体制を築いていくのが仕事です。

 

先日、ベトナムファッションウィークから帰ってきたのですが、人材について思うところがあったので、文章にしてみます。

 

どの国でも、業務をサポートしてくれる Usher とよばれるスタッフが数人ついてくれます。

 

ファッションショーではデザイナー、プロデューサー、ステージ担当、メディア、フィッター、ヘア&メイク担当、スポンサーなど、多くの人たちとのコーディネートが必要です。

 

中には英語が得意ではない方もいらっしゃるので、Usher はそのつなぎ役として重要な役割を果たしてくれます。

 

ベトナムの関係者とは、英語でコミュニケーションをとることがほとんどできませんでした。ところが、3人、驚くほど英語が流暢な人がいて、完全に脱帽でした。

 

聞けば3人はカリフォルニア在住で、ベトナム戦争の難民としてアメリカに渡った次ぎの世代。ベトナム側の主催者から依頼を受け、期間中のみ駆けつけているそうです。

 

ニューヨークのファッションウィークや America’s Next Top Model の制作にも携わっているというから、プロ中のプロ。それは、優秀なわけです。

 

彼らによると、アメリカは戦争難民を積極的に受け入れたとのことで、近年、そうした人材の活躍の場が少しずつベトナムでも増えているそうです。

 

ちなみに、今回はポーランドの Next Top Model との共同企画が組まれました。

 

4人のファイナリストがキャスティングの段階からファッションウィークに参加し、ランウェイを歩いた後、デザイナーの評価によって最終日に1人落とされてしまうという内容です。

 

ポーランドのTVクルーを前に、デザイナーのコメントとして落選候補者の名前を告げるという、何ともつらい役割を引き受けなければなりませんでした。

 

バックステージで彼女は「日本が大好き」と言っていたので、これはとてもきつかった・・。

 

やんわりと、彼女の名前を挙げて ” She has potential but room to improve” と話したら、即 NG。「もっとストレートに表現しろ」と何度もダメ出しをされ、最終的に僕のコメントは、こうなりました。”She is the last one to choose…”

 

だいぶ話しがそれてしまい、スペースがなくなったので、「ASEAN の人材」については次回、続けることにします。

文 石橋正樹

クールジャパンの原点を分析/3万人を動かした盆踊り

約1カ月前になりますが、9月5日にクアラルンプールで盆踊り大会がありました。「これこそ、まさにクールジャパンだ」と感動したので、どこでそう思ったのか、振り返って分析してみました。
まずは、そのときの様子を状況が分かるように書いてみます。

願いもむなしく、雨脚は強まるばかり。グラウンドに近づくにつれ、会場を覆う曇天は鉛色の濃さを増していき、空の位置がだんだんと低く感じられる。世界最大と言われる盆踊り大会の開演前。やぐらで踊りを披露する娘を持つ親としては、傘をささずに重い空に反抗することくらいしかできなかった。

19時30分。定刻になると、はちまきを締め、はっぴを着た男の子たちが頼もしげに会場に表れた。その後ろには、色鮮やかな浴衣姿の列が中央のやぐらを目指して歩く。空はやや明るくなったが、雨はたんたんと降ってくる。抵抗むなしく、傘をささざるを得ないほどに。

いよいよ開演。ここからが、圧巻だった。男の子たちは、雨すらも予定の演出だったかのように一心不乱にバチを振り下ろす。女の子は皆、空に笑顔を傾け、雨に向かってしなやかに手を伸ばしはじめた。

クアラルンプール日本人中学校、3年生が練習の成果を存分に発揮すると、やぐらを取り囲むように、マレーシア人の輪が1列、また1列と、どんどん広がっていく。

NHK によると、参加者は約3万人。見よう見まねで浴衣を着て、見よう見まねで踊りを楽しんでいる。時折、大きな声で「東京音頭」に合いの手を打つのが会場に響き渡る。元々はパナソニックが所有していたグラウンドに、人の輪が、大きく大きく広がっていった。

こんな感じです。

1. 文化を輸出したこと
(文化を知ってもらうことで、日本人を理解してもらおうとした)
2. 現地の人たちを巻き込んだこと
(自分たちだけで楽しむということではなかった)
3. 一体となって作り上げていったこと
(言葉の壁を超えることができた)
4. そして、踊り手と主催者が本気だったこと
(真剣さは熱となって伝わる)
5. さらに、継続してきたこと
(ブランディング)

服や化粧品に置き換えるなら、日本のストリートカルチャーとそれを発信する雑誌などの情報源。現地の人たちを巻き込んで、これを輸出することに成功すれば、日本のファッションが街にあふれるんだと思います。

日本に対して憧れはあっても、現地にはカルチャーがないから参加できない(購買動機につながらない)のです。ところが、日本に行けばカルチャーに参加できるから買う。その商品だけを外に持ち出しても、売るのは簡単じゃないですよね。

とはいえ、ストリートカルチャーを輸出する作業は大変なことです。それこそクールジャパンで動かすことができれば素晴らしい。

今年で39回目となった盆踊り大会は、大使館、商工会議所、日本人会、日本人学校の取り組みによって成り立っています。

見積もり取得の情報戦/ あざむいて、あざむかれる

前回の続き。なぜ、見積もりを依頼するときにプロジェクト内容を実際より大げさにみせ、本来は不必要なものまで対象に含ませるのか?

それは、相手がどこで利益を出そうとしているのかを見極めるため。

見積もりの項目1つ1つに対し、あなたが優れたデータベースを持っており、適正価格かどうかを判断できるのなら、もちろんこうした小細工は必要ない。

お金に関わる交渉事は、現地スタッフに任せれば良いではないかとの声も聞こえてきそうだが、そうもいかない。金額をつり上げるパターンは主に2つあって、1つは「(値段を)まけろ」と言われれば下げる類いのもの。

もう1つは上乗せのメカニズムを巧妙に仕組んでくるもので、この解明にはプロのスキルが必要になる。それほど金額に見合った仕事をしてもらうのは大変なことなのだ。

威勢の良い現地スタッフほど、「あそこは高すぎる」「ほかならもっと安い」などと心強いことを言ってくれるが、最終的に値段は落ちるがクオリティも大幅に下がるのが関の山。これでは交渉とは言い難い。

従って、小細工なりとて懐に忍ばせて有事に備えておくべきかと・・。
ということで、本題に。

プロジェクト内容を大きく見せれば、当然のことながら見積もりの項目が増える。相手にしてみれば、金額の上乗せをするチャンスが増える。少し余裕が生まれる。油断とすきの入り込む余地ができる。

こうして提出された数社の見積もりを比べれば、それぞれの業者がどこで儲けようとしているのかがなんとなく見えてくる。特定の項目なのか、人件費の上乗せなのか。パーツのコストを上げてくるのか、スーパーバイザー費か、不必要な設備を加えてくるのか等々、目を凝らして相手の意図を探る。

その上で、「A社に対して御社の人件費は高い」などと削減要求をし、同意を得られたところで、最終的にプロジェクトの規模が、本社の決定事項として、スリム化されたことを伝える。ここでは、本社の意向とすることが重要。

あなたさえ手玉に取ればなんとかなると思わせないことと、値段交渉などのタフな内容は本社に言わされているのだという口実ができるからだ。万事うまくいけば、見積額は最初と比べて随分と筋肉質に見えるようになる。

文 石橋正樹

見積もり取得で泣かない交渉/時間と胆力には余裕を持つ

海外でプロジェクトを受注した場合、信頼できる業者さんを探すのにまず一苦労する。ネットで検索しても片っ端から電話をかけても、善し悪しを判断するのは至難の業。こうなると知り合いのつてをたどっていくほかはない。

ただこれが案外、功を奏する。なぜかと言えば、やはりメンツ社会であるし、信頼できる人たちは信頼できる人たちのネットワークの内にいるからだ。業種の違う人たちが信頼でつながり、互いに仕事を融通しあっていることも多い。

とは言え、信頼筋の紹介さえあれば損をしない見積もりをとれるかとなると、そう簡単にはいかない。知り合いのおかげさまで、スタート地点だけは良い場所を確保していただいたというだけにすぎない。ここからが実力勝負。

例えば、相見積もりをとるというのはもちろん大事なことだが、単純に安い方を選ぶというのは落とし穴への入り口かもしれない。なぜなら、一般的にプロジェクトをすすめるにつれ、当初と比べて値段はどんどん膨らんでいくからだ。

理由の1つは、仕様に関する受け取り方の違いにある。日本の優良業者さんなら、途中で仕様が変更した場合でも臨機応変に対応し、よっぽどのことがない限り追加で大幅にコストが発生することはない。

ところがローカルの場合は、逐一「それはできない」「やるのならば、これだけの費用が必要になる」と突きつけられる。プロジェクトのタイムラインは変わらない訳だから、途中でこういうことを言われると、明らかにこちらが不利。

今さら新しい業者さんを探す猶予もない。しょうがない、あきらめる。また、不具合が生じる。今度はまったく納得がいかない。それでも、あちらさんは強気。しょうがない、これ以上話していると間に合わない・・・。

最終的に当初の見積もり額から、1.5倍ほどの請求がくる。はねつけようにも、仕様が変わる度に逐一、署名を求められているから逃げようもない。信頼問題にも関わる。支払わざるを得ない。

では、どうすればこういう事態は避けられるのか。答えの1つは、意思決定を先送りにしないこと。時間的な余裕がなくなれば、身動きがとれなくなるのはこちら。かゆいところに手が届くような融通の効くつき合い方ができるようになるためには、どうしても時間がかかるだ。

当面は出たとこ勝負で1つ1つ折衝を重ねなければいけないので、忍耐と時間は十分に確保しておかなければならない。

そして、戦闘に備える。それも、強者との戦いに。この心理戦を優位にすすめるには、身につけたくもないテクニックが必要になる。1つご紹介するとすれば、それはプロジェクトを実際より少し大きめのものにみせ、不必要なものまで見積もりの対象に含ませるということ。

なぜ、こうするのかということは紙面の都合上、次回に。乞うご期待。

文 石橋正樹

アウェーでの交渉 /作戦タイムは必要な戦術

そもそも第二外国語で交渉に臨むということは、その時点でアウェーでの戦いを強いられることになる。アウェーで最も苦労する要素の1つとして、今回は数字のことを取り上げたい。

英語でのカウントは1,000を語るくらいまでは調子もまずまずなのだが、1万を超えるあたりから少しややこしくなる。それ以降は、日本語が万を単位にするのに対し、英語は1,000 を軸にして、1万を1,000が10個(Ten thousand)、10万は1,000が100個(A hundred thousand)などと数えだすからだ。

人によってはこの 1,000 をKと略し、10K(1万の意味)、100K(10万の意味)などと言い出す方もある。さらに9,500 を9.5 K (Nine point five K)としたり顔で数えられようになった頃、同じ数字を Ninety five hundred と伝えてきたアメリカ人の友人に戸惑ったこともある。

数字はとにかくややこしい。にもかかわらず、アパレルの交渉場面ではこれに単位の悪魔が追い打ちをかける。坪効率を語る際には、坪を平米か平方フィートに換算した上、円を相手の通貨に変えなければいけない。それをKを使って表すのだ。

こういうとき、頭の回転に自信のない身としては、混乱を避けるために心がけていることがある。それは、できるだけ登場する単語を相手と共有するということ。相手の言葉を借りることによって、使用単語を少なくするということだ。

たとえば、日本語の坪効率を表す英語の言い回しはいくつか存在するが、仮に相手が “Sales density” という単語を使ったら、自分もそれに合わせ、以降の会話はすべて Sales density で続ける。

得てして、せっかく調べてきたのだから知っている単語を使いたいというのが人間の心情だが、そこは相手を尊重することで会話の単語数を減らすことに専念する。そうしなければ頭がパンクする。

この相手の言葉を借りる作戦には、思わぬ別の効果もある。コーチングではエコー、言い換え、反響のテクニックと言うそうだが、真摯に理解しようとしている姿勢を相手に示すことができるらしい。

「話が始まる15分前には、あなたにここにいてほしいのです」と言われた際、「分かりました。15分前ですね」と応えるのがエコー。

「分かりました。私は、15分前にはここにいます」とするのが言い換え。

反響では、「問題ありません。あなたにとって、重要であることを理解しました。話が始まる15分前に、私はここにいます」(例文の原文はすべて英語)といった具合に、相手の言葉を使って返答をすることで、真剣に聞いている態度が効果的に伝わるというのだ。

最後にアウェーでの奥の手。かかってきた電話はとらない。第二外国語で数字の交渉をしなければいけない場面では、準備が必要だ。相手からの電話を受けては先制攻撃を受けるのも同然で、ダメージが回復しないまま、ついつい半ばパニックになりながら、「イ、Yes」と答えてしまうことがある。

そうならないためにも、一度かかってきた電話はやり過ごし、「5分後にこちらからかけ直します」とのメッセージを送った上で、急いで机の上にメモを用意し、静かな場所でシナリオを確認して交渉を再開した方がいいだろう。

文 石橋正樹

立場に負けない交渉

いい加減を逆手にとる

クアラルンプールで記者として働いていたときのこと。マレーシア工業開発庁が発表した外国直接投資について取材申請の電話を入れた。最初は総合受付窓口、そこから担当部署へ。担当部署から広報に。さらに広報のマネジャーに通してもらった。この間、保留の間に電話が切れ、唯一番号を控えてあった総合受付からやり直すこと2回。やっとたどり着いたマネジャー様は一通り話しに耳を傾けて下さった後、「担当部署に問い合わせて下さい」と逆戻り、堂々巡りの一言を発せられた。

 

最終的に一番親切だった担当部署につなぎ直してもらい、今度は彼の直通番号を確認した上で、何度目かのやり取りで上司に取り次いでもらうことに成功。同庁高官への取材が実現した。ここで言いたいのは、組織のあり方について云々という愚痴の類いではなく、窓口や担当が変われば断られた申請が通ることもあり得るということ。事実、このときの教訓によって、ほかの人が無理だとあきらめた案件をいくつか通すことができた。

 

■交渉のテーブルを移動する

さて、交渉。あらためて言うまでもないことだが、テーブルについた時点で交渉は立場が強い方に有利に働くようにできている。これは会社対会社、組織対組織の力関係なので、交渉担当者レベルではいかんともしがたい。ただ、アジアの場合には上述のように、官公庁や比較的大きな会社であっても部署間のコンセンサスがとれていない場合が多く、ここに付け入るすきがある(あった)。テーブルを会社の前から部署の室内に移動することにより、会社対部署の交渉に持ち込むことが可能なのだ(だった)。相手が部署なら、少なからず力関係も変わってくる。

 

良くも悪くも、アジアが日本人の感覚からは多少いい加減であるのは周知のこと。商談に数十分遅れるのは許容範囲。エアコンの修理を依頼すると、翌朝10時から11時までの間にお伺いしますとアポイントメントに1時間も含みを持たせた挙げ句、正午になっても姿を見せない。催促の電話をすると「明日の午後1時から2時までの間に行くから」と一方的に言われてしまう。こんなことも未だにある。これは「いい加減さ」がマイナスに作用する典型だが、このままでは悔しいのでそれを逆手にとってやろうという島国根性がビジネスの場面で働く(個人的には・・・)。

たとえば、あるブランドが期間限定でアジアのデパートに売り場を持つことになったときのお話し。プロモーションのイベントに協力していただくようデパートとの交渉を任された。最初の担当者はフロアの責任者。反応はまずまず、だが決済はできないからと財務部門を紹介される。後で考えると、彼には日本ブランドへの理解が乏しかった(こちらの説明が不十分だった)。財務担当者はガチガチで話が一向に前に進まない。時間は迫る。後がない。そこで現場担当者に掛け合った。逆戻りである。ところがジャパニーズファッション好きな彼女は、上司であるフロア責任者に直訴してくれた。最終的には彼が財務に直談判してプロモーションの共催が実現した。

 

■最後はやっぱりメンツの話

組織力とコンセンサスの強さで定評ある日本企業が相手なら、人によって言うことが違うということは少ないのかもしれない。ただ、こちらでは往々にしてそれがある。さらに書き加えるならもう1点。特に中華系の人たちが大事にするメンツに関しても、対外部より対内部のガードの方が弱まるのだと思う。つまり、外に対して1度断った内容を覆すことは難しいが、窓口が別の場所に移った状態で、その窓口が自分と違った見解を提示したときに、それを黙認する方がよっぽどハードルが低いのだ(きっと)。こうした場合、最初にかたくなだった財務部門に「あなたのおかげです」という感謝の言葉を伝えることを忘れてはいけない。その一言で、このお方の顔が立つ。

 

立場が弱い条件での交渉場面では、こちらを取り込むことによってメリットを得られる部署なり個人を見つけ、仲間になっていただいく。その上で内部から交渉を後押ししてもらう。部署間で言っていることに相違があるようであれば、むしろラッキーと考えるような発想の転換が必要かもしれない。

文 石橋正樹

How much に隠された意味/だまされない情報収集術

「いいね、それ。値段はいくら?」

顔見知り程度の方に持ち物の品定めをされ、数秒後に値段のことを聞かれた経験があれば、あなたのアジア生活もベテランの域に入ったかもしれない。

「その時計はいくら? 家賃は? 給料は? 学費は? 日本ではどれくらいするの?」等々、華人系の人は一般的に日常の中で How muchを調べることに余念がない。今はもう慣れたが、当初は突然の調査開始に戸惑ったことを覚えている。

ところが最近になって、この How much 調査に実は重大な意味が隠されていることに気付いた。

日本人は海外でだまされる。高い値段で買わされる。通常より不利な条件での取り引きを強いられる。いずれも、耳にしたのは1度や2度ではない。

でも、どうやらこれは事実ではなさそう。シンガポール人も中国人は油断できないと言うし、中国人同士でも決して警戒を解くことはない。日本人にだまされたというケースもある。

では、なぜ日本人は損をするのか?

答えを交渉の現場から導きだすと、大別して1つにはこちらの責任、2つ目にはビジネスや取り引きに対する考え方の違いが関連しているように思われる。

1. 情報量の不足
値段交渉が可能な海外の市場に日本人が買い物に行ったと仮定する。まず店員に値段をたずねる。そこから日本円に換算して安いか高いか判断する。ある程度納得した上で、まけてほしいと交渉する。気持ち、安くなる。これを機に常連になるからとか、友達を連れてくるからもっと安くしてと頼む。断られる。

一方、交渉に強い華人の場合。ことあるごとに値段に関する情報を収集した上で、適正価格を事前に把握しておく。店員に値段をたずねる。高いと返答し、適正価格よりさらに安い値段なら買うと逆提案する。断られる。店を出る。追いかけてきた店員が、いくらなら買うのかと聞く。適正価格周辺でおさめる。

そう、華人系の人たちが How much にこだわるのは、だまされないようにするための防御策だったのだ(きっと)。

相場、下限、上限。これを知らないで交渉に臨むと、痛い目に会うことは自ら何度も実証済み。だいたい嫌な想いをするのは購入後、人から「それは高いよ」と言われたとき。遅まきながら、初めて適正価格に関する情報を得るときである。

日本人の気質上、何気ない場所でストレートに値段のことをたずねるのは難しいかもしれない。ただ、現地の人たちは以外とオープンに応えてくれる。坪と平米、平方フィート、単位の違いに、ややこしい通貨換算など、海外では環境障壁も少なくない。ただでさえ、現地の物価を肌で感じるのは難しいので、日頃より数字に関する情報収集を心がけた方が良いかもしれない。

2. 今こそ全ての論理
上述の「これから常連になるから安くして」がなかなか通じないように、「今回の契約を機にお互いが成長できるように努力するので、なんとか妥協いただきたい」もあまり効き目はない。

こちらが信用されてないからではない。強いて言えば、互いにまずは今の契約で実をとるべきとの考えが優先されるからだろう。極点な言い方をすれば、確約のとれない未来よりも、目前の実利に専念する。将来はまた、その時点での「今」をテーブルに乗せた交渉が始まる。この繰り返しで、結果として長い目で見た付き合いが成立するのであって、初めから長期的展望を共有しての関係構築は難しい。

アジアビジネスでは、1本1本の木をたどっていくことが、森への道に続くのかもしれない。

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