マハティール首相の教育改革
さて、マレーシアの教育改革の続き。サラワク州政府が来年1月から、公立小学校の数学と化学の授業を英語で行うことを決めました。
実はこの試み、過去には国家レベルでも行われているのです。2003年、当時のマハティール首相が国民の英語力強化を目指して半ば力技で導入したのをよく覚えています。マハティール首相は同年10月に辞任します。
そして、この改革は2012年、ナジブ 政権の時に白紙撤回されました。英語力が低いために数学や科学で落第者が続出したことが主な理由でしたが、実際のところ、教員の側が英語化に追いつけていなかったとも言われています。
PayScale.com によると、公立小学校教員の平均月給は約3,137リンギ(約8万1,000円)と決して高くはありません。私立学校やインターナショナルスクールの先生たちに比べると、英語コミュニケーション力も概して同レベルとは言い難いところがあります。
撤回前には英語を母国語とする講師を採用する案も出ましたが、先生たちが職を奪われるという論議が起き、段階的に数学、科学以外も英語化が進めば、母国語による教育機会が奪われるという脅威論にまで発展してしまいました。
子どもたちが将来、どういう社会の一員として、その役割を担うのか。教育にはそのビジョンをデザインする力が不可欠です。
今回、サラワク州の改革導入を後押ししたのはマハティール首相だと言われています。
未来を担うマレーシアの若者を対象にした講演で、首相はAI 社会に対応するため、科学と数学を学ぶことがいかに重要かを指摘したあと、話題を宗教に切り込みます。
「英語化を進めることで、イスラム教育がおろそかになると批判する人がいるが、公立学校は宗教学校になるべきではない。なぜなら、すべての生徒が将来、聖職者になるわけではないからだ。技術は絶え間なく進歩し、そのアップデートは私たちの言語ではなく、英語でなされる。だから、数学と科学を英語で学習することが重要なのだ」。
これは華人系やインド系の政治家には、おそらく公の場では絶対に言えない言葉です。そして今、マレー系の政治家の中にも、力強いビジョンを持ってこの発言をできるのは、きっとマハティール首相をおいてほかにはいないのではないかと思います。
YRCG マレーシアオフィス
石橋正樹