政権運営1年を総括:首相、「トランプよりまし」
マレーシアの歴史的な政権交代から、今日で1年が経過しました。
あるメディアの調査では、国民が将来に対して不安に思っていることの第1位として、国内経済の減速が挙がっているそうです。
このことについて、個人的には良い傾向にあると思っています。
1年前、独立以来61年目にして初めて起こった与野党逆転に国中が湧きました。政権をとった希望連盟は変革を約束し、国民も変化に期待しました。
政権運営から100日を超えたあたりから、公約の実行能力を疑問視する声が聞こえ始め、与党連合の中には、「マニュフェストに固執しすぎるべきではない」という意見も出てくるようになりました。
構造改革は、人が変わっただけで短期間に劇的な変化が現れるほど単純ではなく、まして、閣僚経験者が少ない野党連合による政権運営は当初、ただ単に過去を否定することに躍起になっているようにも映っていました。
自らの手による変革を世に訴えることが優先の政治では、優れた政策を前に進めることは難しいのかもしれません。期待の熱がすーっとひきだした頃、ようやく半年を過ぎたあたりから、一部の省庁では、前政権の路線を客観的に評価し、良いものは復活させるような流れが見え始めてきました。
この頃を過ぎると、あれだけ巨大な汚職事件を起こし、多くの人々がステップダウンを望んだはずなのに、政権運営能力としては前政権の方が優れていると嘆く人も少数派ながら現れるほどです。
1年を経て、国民も与党連合も本当の変革がどれだけ難しいものなのかを実感したのではないでしょうか?
しかし、マハティール首相だけはこのことが見えていたのだと思います。そして、大方の国民もマハティール首相への期待値だけは、この1年間募るばかりだったように思います。
そのマハティール首相は1年を振り返り、記者団に、「Can you tell me which leader has done better than me」と問いかけています。93歳という高齢についても、年齢はアドバンテージにはならないが、経験は優位に働くと語りました。
さて、冒頭で「良い傾向にある」と書いたのは、変革が叫ばれ、その表層に酔いしれる状態が続けば、民族主義が台頭する可能性があると考えていたからです。この国の最大のリスクは、民族融和の現状が崩れることだと思っています。
国民が経済の先行きを不安に思い、政治から経済優先が置き去りにされなければ、次のリーダーもマハティール首相の絶妙なバランス感覚を引き継いでくれるはずでしょう。
ちなみに、マハティール首相は、こうも述べています。「1年を振り返り、少なくともトランプよりはましだったはずだ」。
YRCG マレーシアオフィス
石橋正樹