マレーシアの教育と所得格差
東マレーシアのサラワク州政府は29日、来年1月から公立小学校で数学と科学の授業を英語で行うと発表しました。
地元メディアの扱いはそれほど目立つものではありませんでしたが、個人的には非常に大きなニュースだと思っています。あくまで私見ですが、この国の将来に関わる重要なもの判断だったと考えています。
間違いなく、今後、この決断によって国家の意見を二分する論争が巻き起こるでしょう。
これまでクライアント企業や自社を代表して、プロジェクトスタッフを含めると数百人の履歴書に目を通し、数多くの面接、採用を行ってきました。
面接ではコミュニケーション能力を重視し、当然、民族や宗教は評価基準にはまったく関係しませんが、特にマレー系応募者の英語力の乏しさを実感します。母国語はマレー語で、家庭でもマレー語を話し、マレー語で教育を受けている人が多いからです。
一方、華人系は日常生活に困らない程度のマレー語は話しますが、高等教育を英語で受け、海外に留学する人も少なくありません。マレー系を優遇する教育制度が関連するのですが、ここでは詳述を避けます。
外資系の立場からすると、採用の際、英語のコミュニケーション力に重点を置くのも理解できます。
マレーシアの教育現場における英語力の向上は、長年の課題です。また、母国語はアイデンティティーに関わる問題でもあるので、主要教科はマレー語のまま、一部の教科のみを英語で教育しようというのが今回のサラワク州の挑戦です。
背景には、高等教育を受けた新卒者の就職難があり、その多くがマレー系という社会問題もあります。
3,000万人の市場で、マレー語だけで資本主義の階段を上り詰めるのはある程度の限界があるのかもしれません。
母国語を持たないシンガポールは90年代後半、国を挙げて英語教育を強化する取り組みを行い、2000年代に入ると、今度は中国語の重要性を喧伝し、資本主義化で成功を収めてきました。
マレーシアの歴史を乱暴に振り返ると、マレー系が農業に携わっていた頃、華人系が港湾労働者として、インド系がプランテーション労働者としてイギリス政府から連れてこられました。
しばらくすると、農業に従事するマレー系より、華人系、インド系の所得が高くなり、1969年に暴動が起き、世界的にもめずらしいマジョリティー(ブミプトラ )の保護政策が始まったのです。
以来、所得格差と民族主義は常にこの国の火種となり、所得向上に関わる最も重要なファクターとして教育があげられてきました。ところが、教育こそがアイデンティティーの根幹に関わるという視点から、その改革は民族主義の立場から批判の対象にもなり得ます。
これこそが、冒頭で書いた国家の意見を二分する論争が起きると予測した理由なのですが、だいぶ長くなりましたので、続きは次回にあらためます。
YRCG マレーシアオフィス
石橋正樹